次女が大学院を卒業した。これまで数々の卒業式を経験してきたが、今回ほど心に残る式はなかったと思う。少々遠回りした娘の卒業が感無量だったからではなく、先生たちのごあいさつが素晴らしかったからである。
それは単に学生を賞賛したり激励するものではなかった。先生のお一人は社会人にはもう卒業は無いのだとおっしゃった。小学校であれ中学であれ、嫌なことがあっても卒業すれば生活を変えることができる。だがこれからは困難なことや苦手な人に遭遇しても逃げることはできず、自分で折り合いをつけなければならない。そんなつらい状況を乗り切るためには、できるだけ多くの人に会うこと、できれば仕事や専門分野の違う人たちと話をすることだと続けられた。
これは定年退職後の私たち世代の心にも沁(し)みる言葉である。ボランティアでも趣味でも、とにかく健康ならば外に出て誰かと話す機会を持ちたい。閉鎖的になりがちな気持ちは、より多くの人と話すことできっと解き放たれるのだろう。また別の先生は、大学のキャンパスの語源はキャンプであることに触れ、学校は一時的に滞在するだけで、だれもがみな必ず巣立つ場所なのだと話された。でもだからこそ、いつでも帰ってきて良い場所なのだと穏やかで優しいエールを送ってくださった。
いくつになっても立ち止まるなと私も背中を押されたような気がした。キャンプを転々とするのもよかろう。どれであれ歩き続けることなのだと私は思った。(生活デザイナー)