通り掛かったカフェでガレージセールをしていた。普段は決断力がないのに、こんな時だけは驚異的な早さで掘り出し物を見つけることができる。今回も早々に未使用の懐石の漆器を4組見つけ、マニア垂涎の昭和のケーキ皿を10枚破格の価格で手に入れた。
大満足で帰ろうと思ったとき、埃まみれ雑誌の山が目に入った。古い「暮しの手帖」数十冊である。以前に東京のおしゃれなリサイクル店で見つけた時は一冊1000円前後だった。それらは保管状態のよいものだったが、埃まみれでも中身に変わりはない。
初代編集長で表紙や挿絵でも有名な花森安治さんが手掛けた1970年代のものもたくさんある。生活研究家も自認する私には宝の山に見えた。同行したメディア論を専攻する次女もページをめくっては興奮している。
問題は価格である。埃だらけとはいえ50冊はある。恐る恐る店主に聞くと、持って行ってくれるだけで有り難いからお金はいらないと信じられない返事だった。子供用のかわいい全集と何冊かの英語の雑誌もおまけにいただいた。
今これらの雑誌は私の生活美学と文化研究の教科書になっている。「え? そうなの?」というたくさんの発見と学びに心震える。学者の研究書からは見えてこない人々の普通の暮らしの素朴な疑問や知恵があふれている。私の世代が踏ん張って残さなければならない大切なモノやコトを、これらの雑誌を精査しながらまとめてみようと思う。(生活デザイナー)