函館市は新年度から、サケ・マス類最大種で希少価値が高いキングサーモン(マスノスケ)の完全養殖事業に取り組む。これまで山梨県でキングサーモンとニジマスの交配種の養殖に成功した例はあるが、純粋なキングサーモンの養殖が実現すれば国内初となる。天然資材に頼らない育てる漁業の比重を高めることで、スルメイカの不漁などで低迷する地元水産業界からも注目が高まっている。
新年度一般会計予算案に関連事業費計5915万円を計上。市と北大大学院水産科学研究院と函館国際水産・海洋都市推進機構との共同研究で、市国際水産・海洋総合研究センター(弁天町)内の水槽で種苗生産の研究に取り組む。
初年度は天然魚からの採卵のみだが、22年度には北大チームが2018年に人工ふ化に成功したキングサーモンから採卵できる見通し。また、成魚に育てるための浮沈式いけすの設置場所を選定するための事前調査を、函館海域、汐首岬西海域、汐首岬東海域、噴火湾海域の4カ所で実施する。
キングサーモンを対象魚とした理由として、市農林水産部は「脂がのって美味のため人気が高いが、国内流通品のほとんどが輸入物」とした上で「函館のブランドを冠することで大きな付加価値が期待できる」と期待する。
魚類の養殖には、捕獲した幼魚を成長させる方法と、親魚の精子を人工授精させ種苗を生産する完全養殖があるが、市は完全養殖を選択。実現すれば優良な個体を作出する選抜育種に移行できるという。
同部は「完全養殖の実現と同時に、流通ルートの確立や商品開発など、マーケティングの戦略も同時進行しながら、函館を代表する特産品の誕生を目指したい。低迷する函館の漁業にとって明るい光になれば」と意欲を見せている。(小川俊之)