地域の伝統文化や歴史の魅力を学ぶイベント「函館伝統芸能フェスティバル」(函館市文化遺産活用実行委員会主催)が20日、市芸術ホールで開かれた。道南の郷土芸能や野村万蔵さんによる狂言、東大名誉教授の養老孟司さんの講演が行われ、会場を埋め尽くした大勢の市民を楽しませた。
1部の郷土芸能は、南茅部地区で大正時代に始まった「木直大正神楽」の「翁舞」と、道無形文化財の「松前神楽」は長寿を祝う「千歳(せんざい)舞」や「獅子舞」を披露。地域に伝わる伝統文化の持つ力強さを会場に伝えた。
2部は、萬狂言を主宰する野村万蔵さんの一門が出演。野村さんは狂言について「700年もの歴史がある古典芸能だが、その時々の人が楽しいと笑ってもらえるものに少しずつ形は変わっている」とし、「落語を立体的に演じている。場面の切り替わりは想像力で補って見てもらいたい」と見どころを紹介した。
演目は、出家間もない若い僧侶がうろ覚えの説法に魚の名前を交えてやり過ごそうとする「魚説法」と、主人が留守中に召使いが勝手に砂糖を食べないよう猛毒だと嘘をついて出かける「附子(ぶす)」。それぞれ日本語の音の楽しさやコミカルな掛け合いに、観客が夢中になった。
最後は、養老さんが「自然と生きることの大事さについて」と題して講演。「意識とは何か」ということを通じて、人間と動物との違いや、都市への集中と少子化などの問題点を指摘。「違い」がある自然を受け入れることができなくなり、同一性を求める現代社会への警鐘を鳴らした。(今井正一)