市立函館病院(木村純院長)は、心臓の大動脈弁が硬くなり開きにくくなる「大動脈弁狭窄(きょうさく)症」の最新の手術法である「経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)」を道南で初めて実施し、成功した。開胸手術ではないため、体力の衰えた高齢者など、これまで外科手術による治療を受けられなかった人の尊い命を救うことが可能となった。
この症状は心臓弁膜症の一つで、大動脈弁の開きが悪くなり血液の流れが妨げられる。症状が現れるまでは健康な状態だが、狭心症や心不全の出現後に手術をしないと、2年間の間に半分の患者が死亡すると言われている。重度の患者には心臓を止めての開胸手術が行われているが、高齢者や他の疾病を抱えるなどして、少なくとも3割以上の人が手術をできない状態だった。
TAVIは、太ももの付け根を切開し、血管からカテーテル(細い管状の医療器具)を使って心臓に生体弁を進め、留置する。従前もバルーンを同じように進めて弁を広げる方法があったが、効果は一時的で再び手術を受けなければ予後が改善しなかった。
同院は3年前からTAVIの実施に向け準備を進めてきた。循環器内科医や心臓血管外科医など垣根を越えた心臓治療のプロ集団「ハートチーム」の結成や、最新の医療技術に対応でき、清潔な環境を備えた「ハイブリッド手術室」を整備。昨年11月、道南初となるTAVI実施施設の認可を受けた。
1例目の手術を受けた湯川町の櫛引春江さん(86)は、初めて1月に急性心不全で同院へ救急搬送された。外科手術による死亡リスクが高く、バルーンでの手術を行い一度退院。ただ予後を考えTAVIを受けることを決断し、今月24日に20人以上のスタッフとともに手術に臨んだ。
術後の体調は安定しており、2週間ほどで退院できる見通し。櫛引さんは「珍しい手術だと聞いたが、先生方のおかげでとても楽になった。私と同じような人たちに元気だよと伝えたい」と笑顔を見せた。ハートチームのリーダーで、循環器内科の蒔田泰宏科長は「これまで手術を受けられず、経過を診ることしかできなかった患者さんを助けられるようになった。高齢化とともに患者の増加が見込まれ、将来的には治療の主流がTAVIに置き換わるかもしれない」と期待を込める。(蝦名達也)