函館市が国と電源開発(東京)に対し、大間原発(青森県大間町)の建設差し止めを東京地裁に求めた訴訟の市民報告会(市主催)が9日、ホテル函館ロイヤルで初開催された。約200人を前に工藤寿樹市長と弁護団がこれまでの経緯や今後の見通しを説明、原子力規制委の審査が長引いている現状を受け、訴訟の長期化も辞さないとする考えを示した。
2014年4月の提訴から5年が経過したことを受け、市民に審理状況を知ってもらおうと弁護団から3人を招いて開催。工藤市長は冒頭あいさつで「電源開発は安全強化対策工事を開始し2026年後半に終了する予定で、稼働を目指していることに変わりはない。自然災害と違い、原発災害の本質は人災だ」と強調するとともに「大間原発の凍結は市民の総意。今後も不退転の決意で臨む」と述べた。
口頭弁論は今月6日までに21回開催。弁護団の中野宏典弁護士(山梨)は、原告適格(=市が訴える資格)に関する争いが留保され、中身の審査に移った経緯を説明。訴訟の争点として①大間崎の北側に大規模な活断層がある可能性②原発敷地内に活断層がある可能性③海底火山「銭亀カルデラ」噴火の可能性④テロ対策の脆弱(ぜいじゃく)さ―などを挙げた。
審理の長期化に関し、海渡雄一弁護士(東京)は「現時点で建設が止まっていることに大きな意味がある。訴訟が歯止めとなり、規制委の審査が慎重になっていると考えた方がいい」と指摘。その上で「裁判所は審査できる項目は審査するというスタンス。原発の規制基準の合理性と、規制から外されている事項は審査する」とし、時間がかかっても念入りに進めるとの姿勢を示した。
また、兼平史弁護士(函館)は、市が提訴に踏み切った理由をあらためて説明し「事故が起こった場合、函館から札幌方面に避難するには国道5号に集中するしかない。確実な避難と、実効性のある避難計画の策定は不可能」と述べた。
参加者からは「青森で抗議活動をすべきだ」と指摘が上がったが、市長は「青森も下北も国策の犠牲者。決して自治体同士のけんかにしてはいけない」と返答。さらに「楽な闘いではないが、規制委と地裁が様子見しており、自治体が裁判を起こした重要性を認識している。半永久的に続いてもよく、長引いて困るのは事業者や国だ」とした。
報告会に参加した新川町会の石山政則会長(73)は「原発のことが薄れてきている中、市が現状を示してくれたのは良かった」と開催を評価。住民訴訟を起こした大間原発訴訟の会の竹田とし子代表は「市長が(事故があった)福島に行って実際に体感してきたことが原動力になっており、市の提訴は本当にうれしく思う」と話した。また、市内の60代男性は「会場に若い人が少なく、原発問題に国民の関心が向かなくなっていくことを危惧している」と話し、風化への懸念を示した。(千葉卓陽)