臥牛山4月27日・春の陽気のころ
初任地は道東のあるまちだった。初めての土地で、社会人生活になかなか慣れなかった。平地はすっかり春の陽気に包まれているのに、遠くに見える日高山脈は雪に覆われ雄大で、眺めているだけで気分がすっとした▼この時期、思い出すことがもう一つ。初めて一人で取材を任されたころ、文化講座に出掛けた。突然、講師が声を詰まらせた。保坂清著「美術館を歩く 西日本編」(玉川大学出版部)のエピローグ、著者と神田日勝の絵との出合いの部分を読み上げている最中だった▼取り上げられていた日勝の「室内風景」が、大きな意味を持つ絵となり、当時、エピローグの部分を何度も読み返した。今月初旬、講師を務めた釧路市出身の彫刻家、米坂ヒデノリさんの訃報に触れ、あの時の場面が一気によみがえった▼米坂さんにお会いしたのは、その時が最初で最後。年上の人の感極まった姿と、一つの文章が心動かす力を持つということが、仕事を続けていく自分に大きな支えとなった▼函館に来た時「何かあったら函館山のふもとに行け」と言われた。海が見える景色は最高だった。今なら、各地にあるサクラの名所か。五稜郭公園を散歩したが、ピンクに染まる風景はやはりすべてを忘れさせる。(Z)