臥牛山1月31日・一家団らん
暗い話題が続くとき、ふと思い出す歌がある。「たのしみはまれに魚煮て児等(こら)皆がうましうましといひて食ふ時」。幕末に活躍した国学者で歌人、橘曙覧(たちばなのあけみ)の「独楽吟」の中の一首▼3歳の男の子が、母親の同居男性に「かかと落とし」などの暴行を受け、死亡した。幼児虐待事件の一方で、廃棄処分の食材が市場に出回る、食の安全を揺るがす事案が次々と明るみになる▼曙覧の生活は貧しさに包まれていたようだが、独楽吟では清貧の中での暮らしの楽しさが歌われている。「うましうまし」と魚を食べる子どもへの優しいまなざし。親の愛情、幸福感が伝わる▼「団らん」を辞書で調べると「家族など親しい者同士が集まり、なごやかに時を過ごすこと」とある(新明解国語辞典第七版)。勝手なイメージだが、「一家団らん」には丸いテーブルを囲んで、笑顔で話しながらはしを動かす親子の姿が思い浮かぶ▼6月、函館で初めて「日本さかな検定」が開かれる。「魚ほどいわれやうんちくを語る食材はない。魚食文化の魅力を検定で再発見してもらえば」と主催者。食事の話題の中心が父親のうんちく。遠い時代の話のようだが、食への関心と家族の絆の深さは結び付く。(Z)