普段は札幌にいる次女が函館の家の片付けを手伝いにやってきた。何年ぶりだろうか。大人になって函館を歩くのは初めてかもしれない。せっかくなのでちょっとぜいたくをしてベイエリアのホテルに家族で滞在した。それは想像以上に素晴らしい体験だった。
函館山を背に左手に港、右手に倉庫群。ホテルの並びには老舗のカフェと函館が誇るハンバーガー屋さん、焼き鳥弁当の店が並んでいる。この立ち位置で眺めたことはなかった。お客さまのたびに倉庫周辺を散策し、クリスマスツリーの点灯式にも駆け付け、ベイエリアは身近な場所のはずだった。
それがなぜか、初めて訪ねた街のように新鮮に感じられた。朝の散歩では出会う人も少なく、カメラが切り取る世界はどれも海外の街か童話の世界のように見えた。市電で駅に向かう時、右手に八幡坂、大三坂、二十間坂が続いた。何度も歩いた坂道なのに、電車の窓からゆっくり見たことはなかった。左手には函館市文学館と北方民族資料館。どちらもまだ行ったことがない。
この街で生まれて湯の川幼稚園を卒園し、駒場小学校に入学した年に親の転勤で函館を離れた。だが19年前に広島県から転居して以来、子育も仕事もしてきたのに、私はこの街のことをほとんど知らなかった気がする。電車の中で観光客のように騒ぐ私と娘に夫はあきれ顔。だが足元の幸せや近くにある素敵なモノやコトにはみんな気付かないのではないだろうか。これからゆっくり函館探訪を楽しもうと思う。(生活デザイナー)