新型コロナウイルスの感染者が全国で増える中、陽性かどうかを判断するPCR検査を受けたくても受けられない人から切実な声が上がっている。発熱やせきなどの症状が出て自宅待機を経た後、日常生活に戻れる〝証明〟がなく、通勤・通学の再開時期を悩む人も。市立函館保健所は「重症者をまず検査するのが現状の体制。軽症者を全て検査に回すと医療崩壊を招く恐れがある」として理解を求めている。
保健所「軽症者実施で医療崩壊の恐れ」
「不安が長引くことを残念に思う」―。宿泊客から新型コロナウイルスの感染者が見つかった湯の川プリンスホテル渚亭(湯川町1)を運営する湯の川プリンスホテルの河内昌貴社長は5日、SNS上でこう吐露した。
複数の従業員が感染者と接触したとみられ、うち一人はのどの痛みやせきが出たため、市立函館保健所に従業員へのPCR検査の実施を要請したが、同日現在「検査が行われる予定はない」と訴えた。
この宿泊客は道内から函館を経由し、秋田県に帰省。3日に感染が分かった。県健康福祉部保健・疾病対策課によると、県内の管轄の保健所が感染した宿泊客の家族に聞き取りし、接触があった従業員については「感染者と従業員ともに互いにマスクをしており、長時間同じ空間にいなかったため濃厚接触者には当たらないと判断している。函館保健所に2週間の健康観察を依頼した」と説明。この健康観察の内容は「熱や呼吸器症状がないか気を配ってもらい、体調が悪くなったら連絡をもらう」(市立函館保健所)という。
呼吸器症状や発熱など要件
市はホームページにPCR検査実施までの流れを掲載。①37・5度以上の発熱または呼吸器症状があり、感染者の濃厚接触者②発熱かつ呼吸器症状があり、発症から2週間以内に流行地域に渡航・居住、流行地域の人との濃厚接触者③発熱かつ呼吸器症状があり、入院を要する肺炎の疑いがある④医師が症状や接触歴からコロナ感染を疑う―のいずれかに該当した場合は、相談した保健所の判断で検査を実施する。該当しない場合は治療を行い、症状の経過をみて検査の必要があるか判断するという。
2週間自宅待機の男性「不安でいっぱい」
自分が感染しているのかいないのか、分からないまま日々を過ごした人もいる。函館市内の会社員の20代男性は3月18日から微熱が続き、同21日に37・8度が出たため、同日に帰国者・接触者相談センターに問い合わせた。「のどの痛み、倦怠(けんたい)感があるので検査できないか」と訴えたものの「熱が続けばまた連絡してほしい」と2週間の自宅待機を指示されたという。
他の来院者に配慮し、解熱した同23日にかかりつけの内科を受診。肺炎症状はなく、インフルエンザ検査も陰性で風邪と診断を受けた。風邪薬を服用して回復し、8日に職場復帰する予定だったが、国内情勢を踏まえた会社の意向で13日にずれこんだという。
男性は電話取材に対し「(3月18日以降の)2週間は、体のだるさと検査してもらえない不安でいっぱいで、いざ感染しているかもしれないと思うと胸が押しつぶされそうだった。検査がもっと気軽にできるようになると安心感も高まるのでは」と話す。(稲船優香、野口賢清、小杉貴洋)