市立函館病院(木村純院長)の医療チームはこのほど、上行大動脈瘤(りゅう)の86歳男性患者(桧山管内在住)にステントグラフト(金属の骨格構造を持つ特殊な人工血管)による治療を行い、成功した。同様の治療成功例は、世界的にも5例しか確認されていないという。医療チームのリーダーで同院心臓血管外科科長の森下清文副院長(63)は、「一般的な上行大動脈瘤の手術は、高齢者には体の負担が大きく困難だが、ステントグラフト治療では大幅に負担を減らすことができる。これまで治療をあきらめていた高齢者に回復への道を開いていきたい」と話している。
上行大動脈瘤の治療は、開胸して人工血管に置き換える手術を行うのが一般的。しかし今回は、患者が高齢なことに加え、過去に複数回大きな手術を経験しているため、開胸手術には耐えられないと判断した。一方、ステントグラフトを使う治療では、カテーテルによってステントグラフトを血管内に送り込み、瘤のある部分に留置するため、患者の身体的負担が少ないメリットがある。
ただ、上行大動脈には脳に分枝する血管があり、ステントグラフトが血流を阻害する可能性があるため、これまでほとんど治療が行われなかった。森下副院長を中心とした医療チームでは、脳に分枝する血管にあらかじめバイパス手術をすることで、この危険を回避。無事に手術を成功させた。
患者の男性は順調に回復し、治療から約2週間後に無事に退院。森下副院長は「上行大動脈瘤の高齢患者は、開胸手術による身体的負担が大きく手術をちゅうちょする場合が多かったが、ステントグラフト治療が成功したことで回復の可能性が大きく広がった。今後はより多くの患者を救うために、さらに技術を高めていきたい」と話している。(小川俊之)