救急医療体制を支える「道南ドクターヘリ」が昨年2月に就航し、16日で1年を迎える。1月末までの出動件数は258件。1日当たり0・74件と想定の1日1件以上には届いていないが、安全運航を続けている。ヘリの認知度向上と合わせ、消防、受け入れ医療機関との連携が深まり、2年目は要請、出動件数の増加が見込まれる。今後は実績を重ねながら、より円滑な運航に向けた体制づくりが求められる。
1月末までの要請件数は315件で、実際に出動したのが258件。要請のあった地域で最も多かったのは北斗市で47件。市立函館病院救命救急センターの武山佳洋センター長は「搬送時間の短縮だけでなく、医師と看護師が早急に患者に接触するという本来の目的が達成された」と説明。続いて松前町が41件、森町37件、江差町と函館市がともに27件あり、当初懸念されたヘリ要請への「遠慮」が解消されてきた。
出動の内訳は救急現場への出動が128件と最多で、うち数件は医師による気管挿管を実施。のどにチューブを挿入し、気道を確保する処置で、心肺停止状態でない患者の場合、医師しか行えないため「ヘリでなければ救えなかった命」(武山センター長)と話す。
救急患者を受け入れる二次輪番病院では、基地病院の市立函館に続いて、函館脳神経外科病院と新都市病院が合わせて48件と、全体の2割を占めた。大半が函館の病院でしか受け入れられない脳卒中のため搬送。だが積雪の影響で、救急車と落ち合う着陸地点「ランデブーポイント」が、これらの病院の近くに確保できないという冬場の大きな課題と直面している。
公園広場や学校のグラウンドなど、道南圏のランデブーポイントは昨年末時点で294カ所。このうち常時除雪・圧雪体制が整っているのは40カ所ほどで、函館市内では函館空港、陸上自衛隊函館駐屯地、川汲霊園駐車場、民間企業のカネサン岡田土建敷地内の4カ所にとどまる。
夏場は市内ランデブーポイントから二次輪番病院まで平均17~18分かかるというが、冬はランデブーポイントの選択肢が狭まるのに加え、雪道の影響で救急車による搬送も余計に時間がかかってしまう。札幌圏などに比べヘリポートを設ける病院が少ないというハンディキャップを抱える中、道南ドクターヘリ事務局は「引き続き市に、冬場のランデブーポイントの確保を掛け合っていきたい」とし、行政や市民のドクヘリへの理解を深めていく考え。
本年度予定されている事後検証部会では、昨・本年度の事案について医療機関や消防、行政らで協議。要請から出動までの時間短縮や治療処置などについて分析し、救急医療体制の一層の充実を図る。運航を受託する鹿児島国際航空の同ヘリ操縦士、杉山高照機長は「この1年で地域性を把握でき、今後は対処法を事前に充実させた、先行性の増した運航を目指したい」と語る。
初めての本格的な冬季運航を経験し、さまざまな実績データが生まれた。武山センター長は「1年目の課題改善と救急の質の向上を図り、多くの命を救いたい」と意気込む。(蝦名達也)
■道南ドクターヘリの運航
渡島・桧山管内の18市町や医療機関でつくる運航調整委員会(浅井康文委員長)が昨年2月16日、導入。市立函館病院を基地病院とし、鹿児島国際航空(鹿児島)が運航を受託。年間経費は国と道がそれぞれ約1億円、残りを18市町で負担する。
札幌医科大学と道南の14医療機関の医師や看護師が交代で搭乗する、珍しい体制。最高時速約310キロと速さが武器、奥尻町まで約30分で飛ぶ。故障や年1回の定期点検に備えて、本機とスピードの変わらない代替機の2機を配備、通常は1機を稼働。国内44機目、道内4機目。