長く生きられる分だけ病気は増える。特に認知症になると、介護に家族の負担
が重くのしかかる。「老老介護」の現実も。徘徊(はいかい)がひどくなり、誰かに迷惑をかける場合もある▼愛知県で91歳の重い認知症の男性が徘徊、線路に立ち入り、電車にはねられて死亡した。JR東海が起こした損害賠償請求の適否が争われた裁判で、最高裁は「家族の責任は問わない」と大逆転の判決を下した▼音が鳴るセンサーで見守っていた妻が疲れ「まどろんで目を閉じている」間に出掛けたという。「家族という関係にあるだけで無条件に認知症の人の監督義務を負うものではない」との指摘は重い。決着まで8年余り▼10年後には65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症になると推計される。老老介護でけんか、殺人まで起きている。認知症の老母を独力で介護していた友人は施設に入れても暴れるので、殺しそうになったと話す▼施設の職員が言うことに従わない3人をベランダから突き落とす事件もあった。介護は疲れていても片時も気が休まらない。「まどろむ妻」を誰が責められようか。最高裁の大逆転判決は「介護の実態を総合的に考慮した抜本策が必要」と訴えている。長く生きられるためにも。(M)