函館地域産業振興財団(松本栄一理事長)は、国内外に高鮮度の水産物を輸送するための実証実験を本年度から開始する。森町で漁獲されるサバやブリなどをモデルとし、産学官連携で流通体系を構築して主に生鮮魚の輸出拡大を図るのが狙いだ。3年計画で、現在と比べて2倍の鮮度保持と、輸送コストの4割削減を目指す。
同財団は2014年から、北大大学院水産科学研究院(安井肇院長)や森町の水産加工業ジョウヤマイチ佐藤(佐藤清美社長)などと共同で、生鮮水産物の高鮮度輸送技術の研究を進めている。
本年度から取り組むプロジェクトは、水産物の鮮度長期保持に有効な、0~零下5度の温度帯で産地から消費地までの輸送を目指すもので、農林水産省の「革新的技術開発・緊急展開事業」に採択され、研究費として約7000万円の補助を受ける。
水揚げされた魚体は、海水を零下2・5度程度に冷却したシャーベット状の氷「スラリーアイス」で急冷。魚を生け締めすることで長期間の鮮度保持が可能となり、うま味成分のイノシン酸の値も向上するという。
また、開発済みのスラリーアイス製造装置を小型漁船上でも氷を自己生産できるよう改良し、漁師がこれまで負担していた、氷の調達に必要な費用の軽減を図る。
流通コストを削減するため、出荷時はスラリーアイスから塩水を除いた「脱水氷」を使用。外部に水が漏れず、保温性に優れた専用の発砲スチロール容器で輸送する。昨年は、この方法で実際にサケを新千歳空港からタイまで輸送し、気温が40度を超える現地でも氷が残っていたという。
同財団などは、森町の漁業関係者の協力を得て定置網漁業を手始めに、巻き網など他の漁船漁業にも展開したい考えだ。このほか、食品中の水が凍り始める温度であらかじめ冷やして凍結すると、食物組織の損傷が抑制されることから、スラリーアイスを使った新たな冷凍刺身商材の開発にも乗り出す。
同財団研究開発部の研究主幹グループリーダー、吉岡武也さん(53)は「道は食の輸出拡大戦略を打ち出しており、トレンドに乗った事業。新しい技術で流通の範囲を広げ、北海道の新鮮な魚を遠方の地域に届け、攻めの水産業を実現したい」としている。(山田大輔)