函館市は、成熟誘導で得た養殖マコンブ(促成1年もの)の母藻から種苗を生産する「完全養殖技術」の研究で、8月に水揚げしたコンブが天然コンブを親とする養殖コンブと歩留まり(長さ、厚さ、太さ)の面で遜色ないことを確認したと明らかにした。9月上旬に再び種苗を採取し、今月から海中で栽培し、来年8月までの生育状況に問題がなければ、技術が確立する。気候変動で天然コンブが消滅しても、コンブ養殖が継続できる可能性がある。
成熟誘導は養殖コンブの成熟を人工的に促すことで、胞子を取り出し種苗を生産。種苗を1年間、海中で育てた結果、天然コンブを母藻としたものと同等の養殖コンブができた。
従来法は成熟した天然コンブ(母藻)を採取し、陸上の施設で種苗を培養、生産。その後、前浜に沖出しして海中で本養成する。しかし、函館の浜では天然コンブが激減し、養殖用種苗の生産に必要な母藻不足につながる深刻な問題を抱えていた。
市は2022年度から、国の地方大学・地域産業創生交付金を活用、北大や道総研函館水試と連携し研究を始めた。市小安地区の既存の養殖コンブ施設を使っている。今回1年目のサイクルが成功したが、促成コンブは成長を強化したもののため、成長に不安があるとして、2年目の生育実験を行う。技術が確立すれば25年度以降、現場に普及する考え。函館水試は市内5漁協(函館市、銭亀沢、戸井、えさん、南かやべ)のどこでも技術を使えるよう、成熟誘導の技術をマニュアル化するという。
函館の天然コンブは、16年1月の爆弾低気圧でコンブが流失し資源状況が回復できていない。天然マコンブ水揚げ量は14年度の1400トンがピークで、15年度1143トン、21年度61トン、22年度166トンと低迷している。
市水産課は「完全養殖技術の確立で、天然コンブが捕れなくなっても、養殖コンブを続けられる可能性がある。海の環境変化に左右されず、コンブ養殖を永続的に行えるようにしたい。より良い商品を作るため、遺伝的多様性の確保に向けた研究も進めたい」としている。(山崎大和)