失われつつある交流が電車の中でよみがえる―。函館市電に乗り合わせた初対面の乗客同士が交流を深める初の無料貸切電車イベント「ご縁電車」が26日、市内を初運行した。函館中部高3年の秋山花緒さん(17)の企画が実現したもので、貸し切った3本の電車に年代もさまざまな計70人が乗り込み、スマートフォンを触らずよもやま話に花を咲かせた。
スマホの普及に加え、コロナ禍で以前にも増して対面交流の機会が減っている現状を危惧していた秋山さん。函館市電を利用した際に乗客同士の距離は近いのに、スマホ操作に夢中で会話のない寂しい光景を目の当たりにした経験から、ご縁電車を思いついたという。企画は昨年全国の高校生からワクワクするアイデアを募った「イベント甲子園」で、参加21団体・個人の中からグランプリを受賞。賞金の100万円を使って実現した。
秋山さんの考えに賛同した仲間の高校生8人が協力。今回は市企業局も応援し、現役最古参で市電ファンからも熱い支持を集める「530号」が使用された。車内はご縁をつなぐ神社をイメージした装飾を施し、会話の糸口にしてもらおうと特製の〝おみくじ〟や思い出切符も配布した。
各回1時間半程度の運行で、停車駅ごとに席替えをしてたくさんの人たちが交流を図った。市電ファンが集まれば530号の魅力を語り合ったり、車窓を眺めながらおいしい飲食店の情報を共有したり、学業や仕事、家庭の話など話題も多岐にわたった。参加者は時間を忘れて笑顔で語り合っていた。
普段は自転車で移動するが、この企画を知り参加したという市内の70代無職女性は「年代も性別も超えていろいろな話題を囲むことができてうれしかった。スマホ世代の高校生が考えた企画ということにも大きな意味がある。デジタルにはない魅力がある。ぜひ継続してもらいたい」と話した。
秋山さんは「多くの方々と交流できてうれしかったし、自分が想像していた以上のイベントになったと思う。私たちとしては一度きりだが、好評だったので次につながったらさらにうれしい」と話した。(小杉貴洋)