道南にこの夏、臨床美術士が一挙に8人誕生した。有資格者は10人になり、認知症予防などにつながるといわれる臨床美術の普及に力を注ぐ。6~8日に函館市内で開かれた作品展のワークショップでデビューを果たし、参加者と魅力や楽しさを共有した。
臨床美術は創作活動を通じて心の解放や脳の活性化を促す芸術療法。認知症の予防やストレス緩和などの効果があるという。臨床美術士は、芸術造形研究所(東京)が開く養成講座を受講し、日本臨床美術協会(神奈川)が認定する民間資格。5級から1級まであり、プログラムに沿って参加者をリードすることが役割だ。
全国では取り入れる病院や高齢者施設などが増え、活躍の場が広がっている。道南では七飯町の中村まゆみさん(66)が、各地で教室を開くなど精力的に活動している。
養成講座は道内ではこれまで札幌でしか受講することができなかったが、中村さんの働き掛けで、5~7月に函館で初めて実現。関心を持っていた人らが受講し、最終的に8人が5級の資格を取得した。
8人の職業は医療従事者や教諭、会社員などさまざま。函館市内の病院で言語聴覚士としてリハビリを担当する宍戸加奈美さん(45)は「作品を見て関心を持ったことが臨床美術との出会い。自分も学び、伝える側になりたいと思った。仕事にも役立つはず」と力を込める。
中村さんの活動の場でもある七飯町内の病院で作業療法士として働く筬部吾記さん(44)も作品の世界に魅了された一人。「認知症の人が生き生きと作品づくりをするなど驚きや発見の連続だった」と話す。
宍戸さんと筬部さんは、6~8日に函館市地域交流まちづくりセンターで開かれた「心喜ぶ、思いっきりアート作品展」でワークショップを担当。参加者と会話を交わしながら、作品づくりをサポートした。2人は「緊張したけれど、楽しい時間だった」と声をそろえる。
中村さんは「仲間が増えて心強い。一人では活動に限界があったが、できることが増える。多くの人に臨床美術の魅力、楽しさを伝えることができるようになるのでは」と喜んでいる。(松宮一郎)