臥牛山3月21日・函館を出る君たちへ
「悲しいことがあると 開く皮の表紙」―。函館市内のある高校の卒業式に出向いた際、卒業生を送り出すシーンでブラスバンドが演奏した、荒井由実の「卒業写真」の旋律がじんわりと心に染みた。不安を抱えて函館を去った18歳の春が懐かしくなった▼街中を車窓から見渡すと、引っ越しとおぼしきトラックの姿が目立つようになってきた。進学・就職で街を離れる人々の荷物を運ぶのだろう。新たに越してくる人々はもう少し後の時期になる▼函館市の人口が年間3000人ペースで減少する傾向がここ数年続いている。近年は死亡者が出生者を上回る「自然減」が顕著だが、新たな学校や仕事を求めていく「自然減」の多さも変わらぬ特徴だ▼本州にいる高校時代の同級生と話すと「戻ってきたいんだけどね…」。その後の会話がなかなか続かない。大卒者が街に戻ってこられる仕事の創出と確保が、函館・道南の大きな課題の一つ。定住しやすい公務員だけではおぼつかない▼この春、函館から羽ばたく若い君たちへ。新たな土地でたくさん人生経験を積んで、いつの日か帰ってきて経験を生かしてほしい。戻ったら戻ったで苦労はするけれど、古里はいつでも優しいから。(C)