40歳で獣医学部に入学したという女性に会った。夢を諦められなかったという。獣医になって3年目、まだ勉強中と笑うが、どんなに大変な10年だっただろうか。だが50代からの日々は充実した日々になるに違いない。
私の同い年のいとこは、総合商社の退職を待って大学の通信制の文学部に入学し、若い頃から好きだった国文学を学んでいる。スクーリングなど苦労も多いようだが、卒業は目前。それに勝る充実感と喜びがあるようだ。
ある友人は50歳になったとき、専業主婦から突然外資系の会社の受付の仕事を得た。ネームカードを下げ、一人でランチをしたいという夢を叶えたのだ。5年間勤める間にさまざまな資格を得て起業し、今は溌剌と働いている。
ファーブルの有名な昆虫記は全十巻だが、その多くは彼が60代後半以降に執筆されたという。その熱意に圧倒される。写真は義父の文字である。定年退職後、テレビ局が運営する老人大学で、ゆっくり学びたかった書道を始め、老人大学の大学院に残って師範の最高位まで上りつめた。生涯の趣味にし、私にも美しい文字をたくさん残してくれた。
かく言う私も40代で大学院に入り直して道を変えた。何かを始めるのに遅すぎるということはない。終活宣言をして周囲を整理する同世代が増えてきたが、日々の雑事に追われてそんな余裕すらない。そしてこれから始めることもきっとあると思う。欲が深すぎるのだろうか。
(生活デザイナー)