東京で時間ができたので、江東区の清澄庭園を訪ねた。紀伊国屋文左衛門の屋敷跡といわれる庭園は、関東大震災の時には避難場所にもなったという。静かな庭園でしばし涼んでから次女と地下鉄まで歩く途中、なんとも懐かしい看板を見つけた。「元祖カレーパン」とある。入ろうかと躊躇(ちゅうちょ)していると、あっという間に客が集まってきた。
皆さん午後3時の揚げ上がり時間を待ってきたようだ。これは買わなければなるまい。普通のカレーパンはまん丸で税込200円。辛口はフットボール型で210円。飛ぶように売れていた。明治10年に創業し、昭和2年に「洋食パン」として実用新案登録されたとのこと。一日に3回揚げる時間をファンは皆知っているようだ。ずっしりと重い。そして一口かじって驚いた。パンの部分に脂っこさがない。カレーが固めで食べやすい。想像を超えるコクのある、パンのためのカレーに思えた。開発には苦労しただろう。これぞ元祖の名にふさわしいと次女とひざを打った。
世の中には「元祖〇〇ラーメン」「元祖〇〇まんじゅう」などたくさんの「元祖」がある。それぞれが歴史を語っていて面白い。カレーパンの元祖はピロシキかと勝手に思っていたが、江東区の「カトレア」だったかと納得した。以前べこもちの歴史について調査した際、全道各地のかなりの数のお菓子屋さんを訪ねたが、どこも元祖だとは名乗っていなかった。べこもちは家庭から生まれた菓子なのだろう。あらためて愛しく思えてきた。(生活デザイナー)