近所のおいしいケーキ屋さんが今月末で閉店するという。ご夫婦2人で切り盛りしているので、ご主人の肉体的な負担は大きかったのだろう。90年の歴史だった。
ある日、クッキーが並ぶ棚の端に1種類だけ最中があることに気がついた。洋菓子の店にしては珍しいので、その理由を聞いてみたところ、和菓子屋だった初代が作りはじめた最中だと言う。地域の行事には必ず使っていただいてきたので、洋菓子店にしてからも、それだけは作り続けているとのこと。地域のお客さまへの感謝と歴史のある商品を守る姿勢には頭が下がった。
だがそんな情熱的なご主人をしても、孤軍奮闘には限りがあったのだろう。この店だけではない。最近、後継者がいないために店を閉じるという話を頻繁に聞く。いつか自分の店を持ちたいという若いパティシエや料理人の卵は大勢いるはずだ。何とかならないものかと歯がゆい。
街の変遷は早い。この十年で町内の活気のあった市場も、世話好きの金物屋さんも、威勢のよいお豆腐屋さんも、お風呂屋さんもなくなり、みな高層マンションになってしまった。閉店や廃業の理由はそれぞれあろう。時代のニーズも刻々と変化する。だがそれと一緒に街並みが変わるのが寂しい。
色は塗り替えても、古い壁や石畳は何百年も変わらないヨーロッパの街並みがうらやましい。街は生きている。人も生きている。変化は当然である。だからこそ守るべきモノを見極める力と守る知恵が必要なのだろう。(生活デザイナー)