文化の融合
昨年の大連に続き、今年は青島(チンタオ)の大学で講演をする機会を得た。大勢の学生さんや先生たちの熱心な視線と積極的な質問は教師冥利(みょうり)に尽きる幸せだった。食器や盛り付け、配膳や食卓のマナーなど、日本の特徴的なことを話したのだが、日中の比較は私にとっても興味深いものだった。
迷い箸、探り箸、涙箸など、日本にはたくさんの箸づかいのタブーがあることを説明すると、多くの学生は驚いていたが、私の年齢に近い先生たちからいくつか発言があった。彼らが子供の頃は、箸の使い方や扱い方を厳しく教えられたという。いつごろからうるさく言わなくなったのだろうと皆、首を傾げていた。食卓の文化の急速な変遷はどこも同じなのだろう。
今まで訪ねた中国の街の食堂ではほとんどが白い食器だった。日本の中華料理屋さんで使う龍や雲などの模様のついた食器は見たことがない。日本とて同じで、伝統的な和食器や漆器より、白い食器が多いのが現実である。日本の箸づかいの作法も遅からず忘れられるのかもしれない。仕方がないのか、なんとか守るべきか、なぜ守らねばならないのか、新たな課題を得た思いだった。
チンタオはかつてドイツ領だった。いたるところにその時代の建物が残っている。海辺も美しい。函館に似ていると私は思った。古今東西の文化は融合し、取捨選択されながら時代に合わせて残ってゆく。その中で守るべき大切なものを見誤らないことが何より難しい。意義深い旅だった。(生活デザイナー)