アメリカ大統領選挙の結果は、広く世界を慌てさせた。想定内のはずなのに、大方の読みと違う結果だったようだ。九州では都心の道路に突然、巨大な穴が空いた。想像すべきことも、予期できぬこともありすぎる。
想定内といえば多くの人にやってくる定年退職。私の周辺も半数は職場を変えたり、暮らし方を見直したりしている。後継者の問題で頭を抱える自営業組、今まで何をしてきたのかと溜め息をつく人、趣味がないことに慌てる連中もいる。
わが家も例外ではない。父を見送り子供たちが巣立った今、これからのことを考える時間が多くなった。トシを取ることは想定内だったのに、少なからず慌てている。
そんな先日、似た思いの友人に誘われて久しぶりに外で食事をした。あざやかな色の器で出てきたのはニンジンのオードブル3品。時間をかけて焼いたものやバニラ風味のスフレなど、かつて味わったことのないニンジン料理だった。白菜のメイン料理も自分では作れない逸品だった。おいしい野菜は友人が親しくしている農家のものだという。まだ知らないことばかりだと思ったら、意外にもすぐに前向きになれた。
予期せぬ未来に怯(おび)えてもしかたあるまい。なにが起きても対処できるのが大人だろう。それにしても私を元気にしたのは料理もさることながら、藍色のクロスによく映えるオレンジ色の器だった。色の力はかくも大きい。学ぶことも限りない。(生活デザイナー)