【森】クラリネット奏者、鳥潟さくらさん(29)が今年5月、留学先のフランスから帰国し、生まれ故郷の森町で後進の指導をしながら演奏活動を続けている。昨年から猛威をふるう新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が続く中、熟慮の末、帰国を決意。「これまで培った経験を後進の育成や地元の音楽振興に還元したい」と心機一転、活躍を誓っている。
鳥潟さんは森中学校1年の時、吹奏楽部に入部してクラリネットを始めた。その後、東海大四高校(現東海大札幌高校)、国立音楽大学へと進学。高校時代には全日本吹奏楽コンクールに出場し金賞を受賞したほか、国立音大を首席で卒業し、皇居内桃華楽堂での御前演奏を経験した。大学卒業後の2014年にフランス・パリ地方音楽院に留学し、約7年間過ごした。
住み慣れたパリ郊外で音楽活動を続けたいとの思いもあったが、フランス国内でも新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われ、日々のレッスンや演奏活動がままならない状況になった。ロックダウン(都市封鎖)の措置が取られた昨年3月、日本に一時帰国し、森町の実家で半年間過ごした際、指導の依頼や演奏会の出演オファーが思った以上にあり、この時古里に帰ることも視野に入れたという。
いったんフランスに戻ったが、将来の礎を築くうえで目標としていたオーディションや国際規模のコンクールがコロナ禍でことごとく中止となり、再開の見通しが立たないことから、古里に戻り音楽活動を続ける道を選んだ。
帰郷後、小中学校や高校の吹奏楽部から依頼を受けて、指導に出向くなど徐々に活動の幅を広げ、12月には函館市内での演奏会を計画している。
現在、自宅の一部を改装して音楽ワークショップやサロンコンサートができるレッスンルームの開設に向け準備を進める。大学時代や留学時の体験を踏まえながら、「一方的に教えるだけでなく交流が生まれる指導をしたい」「演奏者と聴き手がコミュニケーションをとれるサロンコンサートを普及させたい」と、今後に向けて次々と思いをめぐらす。
コロナ禍で音楽をはじめとする文化、芸術活動の存在意義が問われる昨今、「音楽が人々の生活にとって身近な存在になるよう、指導やコンサートを通して活動していきたい」。1人の演奏家として新たな一歩を踏み出した。(鈴木 潤)