【北斗】社会福祉法人上磯清風会ケアハウスそよかぜ(宮下光子理事長)に入居する浅野一雄さん(89)は、木を使って仏像や観光名所などを30年間コツコツ作り続けている現在の活力の源は“恩返し”毎日木と対話しながら作品を生み出している
浅野さんは東京出身予科練習生として終戦を迎え、疎開した家族を追って今金町に移り住んだその後、函館市で燃料店を営んでいたが、1986年に店をたたんだ「懺悔(ざんげ)の意味を込め、燃料店の倉庫で仏像づくりを始めたのがきっかけ」と振り返る
不要になった木の切れ端を使い、のみと彫刻刀を巧みに操って命を吹き込む「顔が一番難しいんだよ」と笑う浅野さんだが、表情を細やかに仕上げる腕前には定評があり、函館市内の寺に仏像を寄贈したこともあるという
仏像以外にも、時代を象徴する女性の像や姫路城、平等院鳳凰堂など、アイデアをふくらませて制作してきた浅野さんが「これだけは自慢できる」と胸を張るのは、空中に浮かんで見える天女像「土台に置いたときに倒れないよう、ピタゴラスの定理や三角関数などを使ってバランスを計算した何度も失敗したが、最終的にたった1センチの棒を組み込んで大成功」というから驚きだ
今年2月に入居した浅野さんにとっての恩人がいる理事長の夫で、宮下建設運輸(北斗)の社長を務める宮下清さん(75)浅野さんの作品に感銘を受けて16畳ほどのプレハブ倉庫を設置し、飾り棚を自ら作った浅野さんは「奈良・法隆寺の正堂『夢殿』にかけて、夢をつくるこの倉庫も夢殿と呼んでいる生きがいを与えてもらった恩義に報いたい」と、約50分の1スケールの宮下さんの自宅を制作中だ
宮下さんは「腕は人間国宝級だと思う充実した毎日を過ごせるよう、これからもサポートしたい」と笑顔を浮かべている(稲船優香)