久しぶりの雪景色となった11日の函館市内。夜明け前の函館市企業局交通部の駒場車庫から、1両の電車が出庫した。除雪用のササラ電車ではなく、現役最古の営業車両で人気が高い530号車だ。始発前に持ち前の馬力で軌道を覆った雪を取り除くための作業運行で、静まりかえった街に走行音を響かせながら、厳冬期の安全運行を支えている。
冬場の運行の定時制確保には軌道の除雪が欠かせない。委託業者による除雪用ブラシを取り付けたトラックや軌陸車などが作業の主力を担い、豪雪時にはササラ電車も機動力を発揮する。
530号車は、1948~51年に計30両を導入した500形の1両。戦後の復興期から市民生活を支えた主力車両も、現存車両はカラオケ電車として使用する「アミューズメントトラム」との2両を残すのみ。他の現役車両との大きな違いは制御方式にあり、加速性は悪いながらも車輪が空転しにくいといい、運転士の間では「冬道に強い」と定評がある。
11日早朝のように積雪量がさほど多くない日や、冷え込みが厳しく路面凍結が予想される日は、530号車を始発前や始発便に組み込んでいる。交通部内では「フランジ付け」と呼ばれ、レール上の雪を取り、車輪の縁部分でレールと舗装面の間に溝を付ける役割を果たしている。一般の車が軌道を横切る交差点などでは路面のすき間の雪が踏み固められ、運行障害につながる恐れがある。パワフルな500形を運行することで軌道の安全確認もできることから、近年取り入れた作業だという。
同部事業課の岩田裕幸課長は「朝一番の運行は何があるか分からないが、530号車を走行することで、軌道や架線、信号機の確認ができ、運行の安心感につながっている」と話す。重厚感のある外観の人気車両は老朽化も相まって、営業走行に投入される機会はさほど多くはないが、冬期間は〝後輩車両たちの転ばぬ先のつえ〟としての役目を果たしている。(今井正一)