「見た目」が大切なのは食卓に限ったことだけではないが、改めてその重要性を痛感した。脳はまず味覚よりまず視覚を優先させて判断する。そのことを踏まえて、以前から小さい食器の盛りつけ方や使い方を指導している。だが、「小さい器に盛り付けるには時間がかかり、食器を増やすと洗い物が増える。収納や管理が難しい」などの声もある。
何年か前、病院や介護施設などで調理を担当なさっている方々に招かれ、食器の季節感やサイズ、質感、食欲をそそる盛り付けなどについてお話した際も、私の提案は現実的ではないとの意見が少なくなかった。限られた時間で調理と配膳を行い、かつ安全に片付け、相当数の食器を効率よく収納しなければならない給食の現場は、一般家庭とは大きく事情が違う。各施設で実際に使っている食器をお持ちいただき、それらを組み合わせての実習は楽しかったが、施設の空間と人手、時間的な余裕を考えると実践は難しいとのことだった。
だが、ならばせめて、家庭の食卓では、器や盛り付けに気を使いたい、楽しみたい、そしてその重要性を伝えたいと一層強く思うようになった。見た目がよいというだけでなく、小さい食器に盛ると、大皿に手を伸ばして好きなだけ食べるより、少量で満足感が得られることが分かった。会話が増え、食事時間も長くなるため、血糖値の急上昇が防げるという。つまり、食器や盛り付けを吟味することは健康につながるのだ。見た目、あなどるなかれである。(生活デザイナー)