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荒井三津子さん・暮らしのパレット/日本の意匠

 先日の家庭懐石のクラスでは写真の椀を使った。夏なので波の柄が涼しげで良いだろうと気軽に選んだが、この模様、実は奥が深い。波と車輪の組み合わせで、「源氏車」「波切り車」などと呼ばれる。
 帯や着物にも多々見られる。おめでたい柄だと言われても、子供の頃は、大嵐で壊れた車輪にも見え、華やかな晴れ着の模様に使われるのか理解できなかった。だが義母が残した懐石の椀にこの模様を見つけたとき、改めて調べて納得した。大きな波にのまれて漂う車輪ではなかったのだ。
 貴族たちが使った牛車の車輪は木製だったため、使わない時は乾燥を防ぐために車輪をはずして水に浸けておいたらしい。だとすれば、これは大海原ではなく、川の波である。流れる水は永遠を意味し、華やかな貴族の暮らしを彩った牛車を思わせる図ということになる。
 漆器の場合は、この模様に螺鈿(らでん)を埋め込む込むことが多いらしく、我が家の椀の蓋(ふた)にも小さい螺鈿がいくつか光っている。怖いイメージが一転し、華やかで縁起の良いものに見えてきた。以来夏だけでなく、お祝いの食卓には頻繁に使うようにしている。季節の植物がともに描かれているときはその季節に使うが、基本的に流水と車輪の模様は季節を問わないようだ。
 それにしても水を模様化した先人の感覚はすばらしい。海に囲まれた小さい稲作の国にとって水は古くから脅威であり、祀(まつ)らずにはいられない対象だったのだろう。小さなお椀が日本文化を饒舌に語っている。この国は面白い。(生活デザイナー)

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