あっという間に7月になった。北国は今が一番良い季節なのに、いまひとつ心は晴れない。開催に関しての巷(ちまた)の議論などおかまいなしに、オリンピックは「予定どおり」らしい。さてどんなオリンピック、どんな夏になるのだろうか。腑に落ちないことばかりで少し気は重い。
それでも待っていた夏である。毎年この時期、主宰している家庭懐石の教室では食卓に海苔巻き用の「まきす」を折敷(おしき)代わりに使う。巻きすだれとか、海苔すだれなど、呼び方はいろいろあるようだが、涼しさの演出にも良い仕事をしてくれる。浴衣地で作ったナプキンを添えたり、ガラスの食器を多めに使うなど、夏ならではの食卓づくりは楽しい。
だが、こんなふうに季節感を食卓に取り入れるのは日本特有のことである。クリスマスや感謝祭など行事やハレの日のための料理や食卓装飾は世界中にあるが、特別な日でなくても、春は桜の花びらの箸置き、秋は紅葉柄の食器など、季節特有の演出をする国は少ない。日本は四季が明確だからだといわれているが、膝を折って座り、料理が並ぶ膳全体を見渡して食事をしてきた歴史や、小ぶりの食器を手にとって食べる慣習も影響していると思う。
テイクアウト全盛の昨今、家庭料理も簡素化の一途である。だが季節感のある食器や小物は、ぜひ使いたい。洗い物は増えるが、市販のお総菜も盛り付け直すと、よりおいしく感じるから不思議である。夏は短い。(生活デザイナー)