義母が大切にしていた輪島塗のお椀を懐石の教室で使った。五客に描かれている花は皆違う。古いのに傷一つない。漆の輝きと丁寧な蒔絵の美しさが見事すぎて、皆少々緊張した。手に取ったときの軽さも感動的で、改めて漆器の素晴らしさを実感した。
漆器は縄文時代にはすでにあったというから驚きである。漆器の地色には朱色など何色かあるが、やはり黒が圧倒的に多い。そもそも漆がなければ作れないのだが、黒い食器を作ろうという発想そのものがヨーロッパ文化にはなかったのではないだろうか。
日本で黒い漆器がこれほど好まれてきた理由にはいくつかあるが、素材の木と黒漆を作る材料が手に入りやすいことのほか、白いご飯や餅がよく映えることも理由の一つだったのではないかと私は思う。皆黒髪なので黒に悪いイメージがなかったこともあろう。お椀や重箱は外側が黒で内側が朱色、そこに金色で図柄が描かれていることが多い。
黒と朱色と金色という組み合わせは典型的な日本のイメージカラーである。海外の人たちにはとても新鮮に見えるようだ。漆器は軽い上、熱を伝えないので両手で持ち上げて口元まで運ぶことができる。そのため中国から箸と一緒に伝来したスプーンが和食では必要がなくなったと言われている。軽くて熱くならない漆器は小さい子供や高齢者には安心である。
美しいだけでなく優しい器なのだとしみじみ思う。次世代にもその良さを伝え、しっかり残していきたい。(生活デザイナー)