食生活論の講義で今、箸の文化について考えている。たった二本の棒なのに、つかむ、はさむ、はがす、つきさすなど、箸はナイフとフォークよりはるかに有能な食具である。
写真は中国で撮った一枚だが、箸は先が太く長いので扱いづらかった。韓国の箸は平たく金属製なので使うのが難しい。それに比べて日本の箸は、使う人に合わせて長さが違い、細かい作業ができるように先も細い。だが日本と中国、韓国の決定的な違いは、箸を置く場所と向きである。
その理由を学生たちと考えているのだが、文化の謎には明確な答えは出ない。それでもこの推理にも似た作業が実に楽しい。40代で文系の大学院に進学した頃は、理系出身の私は方法論が違いすぎて随分苦労した。こんなことなら道を変えるのではなかったと後悔したが、自分の選択だったので転びながらも今日までやってきた。
順風満帆のまま人生を終える人は、いったいどのくらいいるのだろうか。若い頃描いた夢は、どんなに努力しても叶わぬことがある。逆に、偶然知った学校や会社で、思わず自分の能力を生かせることもある。
「自分に合わない」とか「想像と違う」という理由で学校や会社をあっさり辞める人に会うともったいないなと思う。がまんして心身疲れ果てては断じてならないが、多かれ少なかれ想像と違うのは当たり前である。折り合いをつけながら自分が変わることでチャンスを掴むこともある。人生は難しい。(生活デザイナー)