配偶者の若い中国人の同僚が結婚したので、わが家でささやかなお祝い会を開いた。カナダ人の彼も研究者。北の大地でともに夢に向かって仕事をしている。
家庭料理ばかりの夕食だったが、母の代からの古い器に盛ると、なんとなくご馳走に見えたから不思議である。鶴の形の器や鯛の形の箸置きは縁起が良いのでお祝いの食卓に使うのだと言うと、彼女は興味深そうに耳を傾けていた。割り箸にも元禄(げんろく)や天削(てんそ)げ、利休箸などの種類があること、お祝いには丸くて中心部が太い、柳の祝い箸を使うことなど、気がつけば私はずいぶん詳しく説明していた。
日本の食文化の多くは中国から伝わったものだが、自然環境や歴史、社会的な背景などの影響を受けながら日本独自の発展を遂げてきた。割り箸はその代表的なものだろう。木製の四角い折敷や箱型の漆器はつぎ目を向こう側にする。丸ければつぎ目は手前。盆や折敷など木目があるものは、木目の流れは必ず横向きにしなければならない。水引など紅白のものは「右紅左白」と言って紅(赤)は右。金銀の場合は金が右である。懐紙のたたみ方も慶事と凶事では異なる。
かたくるしいしきたりに縛られず、なんでも今風に楽しもうという動きも悪くはないが、時代とともに自然に消えてゆくものは必ずあるのだから、せめて今まで伝えられてきたことには従いたいと思う。若い世代も暮らしの細かいしきたりに意外なほど興味をもっている。なんだかうれしい。(生活デザイナー)