久しぶりに次女も一緒に函館で過ごした週末、十数年ぶりに、昔暮らした家の辺りに行ってみた。古い中古の家だったが、広島県から転居した私たちは6年間楽しく暮らした。長女は中学から高校、次女は小学校へ元気に通った。外装はすっかり変っていたが、私たちが赤く塗り直したドアと、はめ込んだガラスブロックはそのままで、懐かしさで胸が熱くなった。
すると、お隣の奥様が気付いてくれてしばし立ち話。昔と同じ情景が繰り広げられた。数軒となりの洋食屋さんのドアを開けると「あらいらっしゃい!」と、こちらも全く同じ笑顔のマスターとマダム。当時私はかなり忙しかったので、娘たちは頻繁にこの店でお世話になった。イギリスにいる長女に店の写真を送るとハムカツとハンバーグがおいしかったとすぐに返事が来た。娘たちのふるさとの味はどうやらこの店にあるらしい。
その夜、大きなイベントを終えて家族で立ち寄ったバーでは30年来の友人にばったり。彼ともずいぶん長く会っていなかったが、その間のお互いの諸々の話しなど、どうでもよかった。変らぬ彼のエンターテイナーぶりのおかげで、少なからず感傷的だった私たちはすっかり元気になった。どんなに時間をかけても思いの伝わらない人がいる。すぐ近くにいても理解し合えない人だっている。だが時間を越えて「あ・うん」の呼吸で分かり合える人も確かにいる。そんな大好きな人たちに期せず会えた一日だった。函館はあくまでも優しい街だとつくづく思った。(生活デザイナー)