ハーブには悲しい思い出がある。20年以上前、某紙でハーブに関する連載をし、それが縁でハーブの本を出版した。出版社からの依頼だったが、書くからにはしっかり育ててみようと、わが家の狭い庭は何種類ものハーブで埋め尽くされた。当時それほど多くはなかったハーブ農家を訪ね、いろいろお聞きしながら試行錯誤を重ねる日々はとても楽しかった。
料理やキャンドル、さまざまな雑貨もつくり、せっせと写真を撮った。だが思わぬことが起こった。ある日突然、いきなり最終原稿が送られてきて色校正もできぬまま出版になってしまったのだ。先方にも事情があったのだろうが、ボツにしたはずの写真が多用されて色もひどい。ショックは筆舌に尽くし難かった。周囲からはなぜ写真の選抜をしっかりしなかったのか、なぜ色校正をしなかったのかと厳しい批判も受けた。
それ以来、理不尽なことには断固立ち向かうという仕事の姿勢を一層強くして今日まできた。とはいえ今もその本を手にすると心は穏やかではない。ハーブ畑を見るたびに傷がうずく。だがこのまま年を重ねるのが急にいやになった。あんなに一生懸命育て、書いた本である。加筆し、写真も撮り直そう。若い人たちにハーブの豊かな文化を伝えよう。そう決めた数日後、ニセコから黒々とした土で元気に育つハーブの苗がたくさん届いた。今からでもやりなおせることはきっとある。不覚にも涙がでた。(生活デザイナー)