東京オリンピックの開催が決まった時、印象的だったのは滝川クリステルさんの「お・も・て・な・し」というフレーズだった。前後して和食がユネスコの世界文化遺産に登録されたこともあり、日本の「おもてなし」は世界で高く評価されていると私たちは自信をもった。だが、そもそもおもてなしとはどういうものを言うのだろうか。
年末、二十数年ぶりにパリに行った。かつてはフランス語しか通じず大変苦労したのだが、今は英語で暮らせる街になっていた。アフリカで仕事をしている友人が小学生も皆完璧に英語を話すと驚いていたことを思い出した。この20年で世界は大きく変わった。だが日本は海外から大量のお客さまを迎えても英語で対応できる保証はどれくらいあるだろうか。ことばより気持ちだというのなら、それは思い上がりではないか。お客さまに不安と不自由を与えることはおもてなしの対極である。おもてなしというのは安心感の提供だと私は思う。
写真はパリのカフェ。男性のウエイターをギャルソンと呼ぶが、彼らのサービスは素晴らしい。ヨーロッパでは概ね気軽な店でのサービスの感じは悪くない。チップ制度が育てたものかもしれないが、目を見て受け答えをし、相手の意図を理解してそれに対応できる技術は素晴らしい。美しい持ち物自慢だけではだめなのだとそろそろ気付かないと日本は本当に世界においていかれる。いろいろなことを考えた旅だった。(生活デザイナー)