広島県から函館に転居した時、長女はとても不服そうだった。一生懸命勉強して合格し、6年間通う予定だった学校に1年しか行けずに転校することになったからである。
広島に下宿したいと懇願されたが、中学2年の娘を一人残すことはできなかった。高校進学に際しても、私たちは遠方の高校に行きたいという長女の希望を叶えてやらず、また失望させた。
その彼女も32歳になった。医者になり、少しは世の中の役に立つようになったはずだが、来月からイギリスの大学に行くと言う。どうしても勉強したいことがあるとのこと。反対する理由など、もはや私たち親にはなかった。
子供は親を選べない。私自身も受験したい大学があったが許されなかった。もっとお金持ちなら、もっと親に理解があればと若い頃は何度も思ったものだ。だが親も家庭も取り替えられない。そもそもその必要などない。生まれた環境で自分自身を育てることができるのが人間だからである。そのことに気がついたのは恥ずかしながらつい最近のことである。
写真は長女が高校時代使っていた自転車である。珍しく買ってほしいと言ったオレンジ色の自転車は大学時代も彼女の足として活躍した。見るたびに子育ての日々が浮かんで少し胸が痛い。すっかりさびてしまったが仕事で使った花を乗せると急に輝いて見えた。整備してみようと思う。(生活デザイナー)