高齢の建築家ご夫妻のすてきなライフスタイルを描いた「人生フルーツ」というドキュメント映画を観た。「感動した」「泣けた」という感想どころか、「生活がすっかり変った」とか「生き方を変えた」という人が周囲に続出。
彼らの興奮に後押しされて札幌で観てきた。期待は裏切られなかった。90歳と87歳のご夫妻は名古屋郊外の300坪の土地で、40年かけて豊かな家庭菜園と雑木林を育ててきた。2年間このご夫妻の生活を追って、全国でロングランの感動の映画に仕上げたテレビマンたちの熱意と誠意も伝わってきた。
この映画のメッセージは、単に家庭菜園の豊かさや、何でも手作りするというライフスタイルにはとどまらない。高度成長期以降の急速な都市化や自然軽視、豊かなはずのモノ社会の末路など、美しい画面の向こう側に耳も心も痛いたくさんのメッセージが見え隠れした。生命科学と食生活論を教えている立場としても考え直すよい機会を得たように思う。
感動の新しいうちに毎年必ず雑草畑になってしまう狭い狭い庭を平地にした。宿根草もあったが芽を出す前に耕した。限られた空間だが、何かが実る庭にしよう。収穫より時間の流れを感じることこそ今必要な気がしている。
だが、歳月をかけて作り上げた主人公ご夫妻の300坪の豊かな庭など、しょせん願っても無理。ただ、見習えることがあるとしたら彼らの穏やかな会話かもしれない。優しさのにじむ言葉の選び方、伝え方が深く心に響いた。いろいろ反省しながら老後を過ごそうと思う。(生活デザイナー)