大学の後期は食生活論も教えている。2年前に出版した自著「食学入門」を教科書にしているが、実は食学という専門領域はない。食べるということを広く考えると、単に生命や健康の維持だけが目的ではないことは明らかだ。
そこでテーブルセッティングや作法、外食のマーケティングや遺伝子組み換えなど、文系と理系の壁を取り払って食の周辺を広く取り扱って「食学」とした。
だが、食をとりまく環境は日々変化し、講義は簡単ではない。炭水化物ダイエットが話題になったかと思えば、次はグルテンフリーだとう。一日三食しっかり食べることがベストだと言っても、栄養学の専門家や医師の中には1食という人もいる。
そもそも朝ご飯の定義が難しい。学生や午前9時から働くサラリーマンならば7時の朝食は可能だが、理想的な時間に朝食をしっかり食べられる人ばかりではない。昼食も夕食も同じである。マスコミは次々に「カラダにいい」と言われる食材を取り上げる。「〇〇に効く」とか「治った」とか、根拠があるものから怪しいものまで、実に騒々しい。
食料自給率がかくも低い現実を前にしてもなお、遺伝子組み換えの食材は天敵のように嫌われ続けている。作法に関して言えば、「いただきます」というあいさつ自体歴史が浅いのに、いろいろな理屈付けがされ、さらにいつの間にか合掌してから食べる「風習」が広まった。地域差はあるものの、テレビなどでも頻繁に見かける所作になった。目が離せない食の周辺。懐疑心を持って日々暮らしたい。(生活デザイナー)