【厚沢部】青春の味をもう一度―。町内の人気店「前井食堂」(本町45)が「前井さんのラーメンが食べたい」という町内のお年寄りの思いに応えて老人施設で“屋台”を開き、心を込めた一杯を無料で振る舞った。懐かしの味に入所者は感激し、同店は「昔の常連さんに食べてもらいたかった。皆さんの支えでお店があり、感謝の気持ちも伝えたい」としている。
同店は1897(明治30)年創業の老舗。日本海のニシン漁が盛んだったころ、江差などから馬車で峠を越えて函館側に向かう途中に店を構え、峠を越える長旅に挑む先人の活力になった。5代目店主の前井敏弘さん(52)は地域とのつながりを大事に厨房に立っており、現在でも多くの住民に愛される存在だ。
前井店主は昨年11月、町内の介護付き有料老人ホーム「ゆいま~る厚沢部」の関係者から「ここのラーメンを懐かしむ利用者がたくさんいる」という話を聞き、「店の休日に出向いて食べてもらいたい」と約束した。12月6日に前井店主と妻のみきさん(52)、前井店主の母親美恵子さん(73)がゆいま~るを訪れ、自家製の麺とスープ、店舗の丼ぶりを持ち込み、約20食分を振る舞った。
「出前ではなくて、店と同じ雰囲気で」(前井店主)とトレードマークの前掛けとタオルを頭に巻いた姿にもこだわった。入所者の健康を気遣って薄めの味付けにし、スープを飲み干すお年寄りの姿を笑顔で見守った。町広報誌では「感激のあまり、涙を流しながら食べる人も」と紹介された。
同施設は「前井食堂の好意がありがたく、温かな時間を過ごすことができた」と感謝。前井店主は「入所者の中には幼少時から食堂に通ってくれた人もいる。こんなに喜んでもらえて、こちらこそうれしい」と話している。(田中陽介)