北海道生まれの伝統菓子を守り、全国に誇れる企業に
地元の素材を主原料に日本全国へと餅菓子を展開
「株式会社天狗堂宝船」は、北海道銘菓「きびだんご」をはじめとする餅菓子を中心に製造・販売する函館生まれの菓子メーカー。創業は1953年、函館市内の菓子工場に勤めていた初代・千葉正三さんが、新川町で「千葉製菓」として独立したのが始まり。カステラをメインに、どら焼きやあめ玉など昔ながらの菓子を手掛けていたが、時代と共に大手企業の菓子商品が台頭すると、新たな活路を見出そうと68年から「きびだんご」の製造を開始。「きびだんご」の生地をベースに、北海道の素材を生かした「くるみ餅」や「きなこ餅」など、商品の幅を広げ、全国に展開するコンビニチェーンの定番商品に採用されると、地元はもちろん日本各地で愛される主力商品へと成長を果たした。 2007年に本社工場を七飯町に移転してからは、西洋リンゴ栽培発祥地である同町をPRしようと、リンゴの自社加工も開始。今年2月から七飯町産のリンゴや函館市産のガゴメ昆布を使ったひとくち餅菓子シリーズを販売するなど、地元の素材を主原料とした幅広いラインアップを展開している。
北海道独自の「起備団合」を子供たちにも伝えたい
道民にとって馴染みの深い「きびだんご」は、岡山県名物の餅粉やきび粉を使った羽二重餅「吉備団子」とは全く異なる北海道独自の餅菓子。原型になったのは北海道の開拓に当たった屯田兵の携帯食と言われ、関東大震災があった1923年に流通菓子としての製造が開始されたことから、開拓者の助け合い精神と復興の願いを込めて〝事が起きる前に備え、団結して助け合う〟という意味の「起備団合」と名付けられた。一時は本州にも製造する企業があったが、現在残っているのは道内の2社のみ。祖父の代から続く「きびだんご」の製造を受け継ぐ千葉仁社長は、「腹持ちの良さや、畑仕事で手が汚れていても紙に包んだまま片手で食べられる形状から、昔は農繁期に欠かせない休憩のお供だった。今でも懐かしいと手に取って下さる方が多いですが、若い人にもこの味を伝えたい」と、手土産にできるデザイン性の高い商品も用意。パッケージキャラクターである〝桃太郎〟のストーリーになぞらえ、節分の鬼退治の豆の代わりに「きびだんご」が使えるよう個包装商品を作るなど、20年来食育活動にも力を注いできた。
特徴を生かす発想の転換が伝統の味の可能性を広げる
餅粉や小麦粉を混合した生地に水あめとあんを加え、あめ色になるまで約2時間掛けて練り上げる「きびだんご」は、仕上げにオブラートで包むのが伝統の製法。オブラートがセロハンと誤解されクレームが入ることもあったが、「歴史ある商品を大切にしながら、固定観念を覆す斬新な発想も重要」とオブラート自体に味を付けた商品で新しい味わいも提案。「手がべとつかず扱いやすい」とトライアスロン選手の間で、きびだんごがベースの「くるみ餅」が重宝されたことから、アスリート向けにパッケージデザインと成分を向上させたエネルギー補給食「Enemoti」を開発するなど、今までにない発想の転換で、昔からある商品の特徴を時代に合わせて生かしてきた。「これまでもこれからも、根っこにあるのはきびだんごです。突き詰めて考えられた商品は説得力が違うので、胸を張って届けられる。小さいながらも全国に向けて商品を販売する会社が地元にあることを知ってもらえたら」と千葉社長。北海道生まれの伝統の味には、今こそ見直したい可能性が詰まっている。
株式会社 天狗堂宝船
七飯町中島205‐1
☎0138‐66‐3200(代)
ハコラク2020年7月号掲載