真に伝統を継ぐべく技を研ぎ澄ませ
道具を超え生命力を感じる作品に
「手間を掛けゆったりとお茶を味わう時間、物を丁寧に扱う所作…作品を通してお茶の文化の一端を伝えられたら」。そんな思いを込める白岩さんの急須は、自然に両手で包み込みたくなるやわらかな雰囲気をまとう。茶道具としてだけにとどまらない美しい造形の原点は、常滑焼の本場・愛知県で日本最高峰の急須職人と称される小西洋平氏との出会い。「先生の作品は人の手で作ったものとは思えず、造形だけであんなにも感動したのは初めてだった」と、大学時代に弟子入りして以来、急須作り一筋に心血を注ぎ、2013年に函館山の麓に、薪窯「鞍掛窯」を築いた。
急須はまず道具として形作るだけでも難しく、100個作っても完成するのは一握りという薪窯を使う職人は全国でもまれ。加えて土と灰が溶け合うことで生まれる自然釉の発色を生かそうと、扱いの難しい「白泥」に10年来挑戦し続け、淡く、時に目の覚めるような色彩を炎の揺らめきと共に作品に焼き付けてきた。「技を継承するだけではなく、新たな感覚を足していくことが真に伝統を受け継ぐということだと思っています」と話す白岩さん。ろくろを挽き始めると、わずか2mmという厚さでみるみる急須の部品が現れ、指の感覚のみを頼りにふたと胴をピタリと合わせる瞬間は見る者を圧倒する。「粘土がちゃんと言うことを聞くでしょ?」と語り掛けるように作品と向き合う様子に、土に命が吹き込まれる現場を垣間見た気がした。
(ハコラク 2020年7月号掲載)
鞍掛窯
函館市住吉町5‐15
☎0138‐26‐1510
http://www7b.biglobe.ne.jp/~tai-s610