固定観念にとらわれず、函館の食文化を次世代に伝えていく
老舗いかめしメーカーが 不漁を受け新たな挑戦
老舗食品メーカー「ヱビスパック」は、真空パックいかめし製造のパイオニア。東京・築地の食品メーカーで経験を積んだ初代・対馬正明さんが、1968年、乾燥珍味を製造する「対馬商店」を創業したのがはじまり。転機となったのは75年初頭、食品の長期保存といえば缶詰が主流だった時代に、当時開発されたばかりの真空パック技術をいち早く導入。湯煎するだけでできたてのような味が楽しめる、真空レトルト加工の「とうもろこし」と「いかめし」を日本で初めて発売した。その後、同社の代名詞となった真空パック技術と商売繁盛の神〝恵比寿さま〟を由来に「ヱビスパック」と社名を改め、いかめし専門メーカーとして歩んできた。2019年に発売した「焼きさんまめし」は、イカの不漁を受け、いかめしの加工技術を応用して生み出した、約40年ぶりとなる新商品。20年に「焼きいわしめし」、21年に「焼きさばめし」と相次いで発売した「さかなめし」シリーズは、函館近郊の道の駅や土産物店で販売するほか、本社でも直売し、地元の人を中心に人気を集めている。
イカに代わるアイデアで 郷土食の加工技術を守る
創業者が幼い頃に慣れ親しんだ〝お袋の味〟から生まれた「ヱビスのいかめし」。2009年、2代目社長に就任した対馬正樹さんは、かつては余った朝獲れイカを弁当にしたり、地域の給食で出されたりと身近な存在だったいかめしが、今や北海道物産展など本州での販売がメインの高級品になりつつあることに危機感を募らせ、「地元での消費量が少ないと、工場や加工技術はやがて失われる。函館の郷土料理の一つであるいかめしを残し、進化させたい」と、長年築いてきた製造ノウハウを生かした商品開発に注力。従来のスルメイカに代わる食材として、漁獲量全国1位を誇る北海道産サンマに着目し、魚の腹にいかめしのご飯を詰める遊び心あるアイデアから「焼きさんまめし」を考案。味を磨き続けてきた伝統のいかめしダレで味付けた甘じょっぱい焼きサンマと、刻みショウガを利かせたご飯が相性抜群で、「焼きいわしめし」と共に同社の主力商品へと成長。酒に合うよう塩のみで味付けした「焼きさばめし」で新たな味わいも追及し、形を変えていかめし作りの技を伝えている。
新商品をきっかけに子供たちにもいかめしを
郷土食として国産素材にこだわって作る「いかめし」はもとより、この製法をベースとした「さかなめし」の製造は手作業が基本。青魚に下処理を丁寧にしてから、札幌の老舗醸造所の道産丸大豆しょうゆにダシを加えたコク深いタレに一昼夜漬け込み、独特の臭みを抑制。さらに一尾ずつ腹の内側に包丁を入れることで、うるち米ともち米を配合して炊くモチモチのご飯をきれいに詰めることができるという。仕上げに殺菌釜で約120℃の熱と圧力を加え、真空レトルトパックにする工程は、健康に良いとされながら小骨が多いことで敬遠されがちな青魚を、背骨まで丸ごとやわらかくし、子供や年配者も手軽に食べやすい商品となった。「子供の頃に口にしたことがない味は、大人になってからもなかなか食べてもらえない。昭和に〝いかめし〟、平成に〝さかなめし〟と生み出してきたので、いかめし製造の第一人者として先人たちの知恵を守り、令和の時代にもう1度いかめしを食べてもらえるよう、さらなる新商品を開発していきたい」と対馬社長は力強く語った。
株式会社ヱビスパック
函館市昭和3‐23‐6
☎0138‐45‐1359
9:00~17:00
土・日曜、祝日定休
P有り
https://www.ebisupack.com/
ハコラク2021年11月号掲載