においの不思議
あるにおいを嗅ぐと、それにつられてありありと記憶がよみがえることがあります。においを処理する嗅覚中枢が、大脳の中でも比較的古い皮質の中にあることと関係があります。そこは大脳辺縁系といって、原始的な動物にも共通に見られるところで、海馬や扁桃体など記憶や情動をつかさどる部位が集まっているところです。においは無意識のレベルで人の行動に強い影響を及ぼします。生まれたばかりの赤ちゃんでも、においをしっかり識別出来ることが分かっています。母親の母乳と他人の母乳を顔の横に並べられると、母親の母乳の方に顔を向けます。いろいろな実験の結果、赤ちゃんが最も好むのは羊水のにおいで、生後数日間は「母そのもの」よりも強いことが分かっています。この場合も母乳に含まれる羊水のにおいに反応しているようです。
特に食べ物と共に学習したにおいは、強い影響を残します。母乳をあげるたびにカモミールのにおいを嗅がせると、カモミールのにおいも好きになっていきます。妊娠中からニンジンジュースを飲み続けた母親の子供は、成長後にニンジンのにおいのするシリアルをより多く食べるようになるという観察結果もあります。特定のにおいに長い間さらされていると、そのにおいのする食べ物を受け入れやすくなるのです。これが「おふくろの味」の正体かもしれません。
今は便利な世の中です。お店にはいろいろな種類のベビーフードが並んでいます。忙しい時や外出する時には、ベビーフードの活用も必要でしょう。でも料理は子供のにおいの感覚を育てるのにとても良い機会です。ニンジンやパセリなどの形を見せて、触らせて、においを嗅いで、一緒に楽しく料理をする。お母さんと楽しく過ごした時に嗅いだにおいは、良いイメージとして子供の心に蓄積されます。さまざまなにおいの体験を積み重ねることが、子供の心の幅を広げてくれることと思います。
(ハコラク 2020年11月号掲載)
略歴
昭和59年、北海道大学医学部卒業。同年4月から北海道勤医協札幌病院に8年間勤務後、静岡てんかん・神経医療センター小児科、道南勤医協稜北病院小児科医長を経て、平成21年9月、はるこどもクリニックを開院。平成23年12月病児保育所はるっこ開設。日本小児科学会小児科専門医、日本小児神経学会小児神経専門医。著書に「いいとこ探しののびのび子育て」あり。
はるこどもクリニック
病児保育所はるっこ(はるこどもクリニック併設)
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