暦のなかった時代、月は時の流れを示す重要な存在だった。その形は正確に変化し、周期に狂いはない。月への憧れと信頼がどれほど厚かったかは、世界各地の月にまつわる神話や行事が物語っている。かぐや姫の竹取物語も然(しか)り。日本人は月に餅をつくウサギも見ている。光輝く満月はもちろん、刻々と形を変える月が、神秘的で頼りになる神に思えたのは当然である。
だが、月はほぼ1カ月に一度は満月になるのに、日本では「十五夜さん」と親しみを込めて呼ぶのは秋である。空気が澄んでいて秋の月は特に美しく見えるからだというが、一番の理由は農業との関係ではないかと思う。イネ科のススキを飾り、餅や団子を積み重ねるのは、お月見が稲作と強い結びつきがある行事だったからだろう。月を愛(め)でる行事は中国から伝来した。古くは貴族が池や杯に映る満月を愛で楽しんだというが、今でもお月見には里芋や栗などの収穫物を山積みにして供えることから見ても、庶民にとってのお月見は収穫感謝の行事だったことは間違いあるまい。
今年は生活リズムも経済活動もみな大きく狂ってしまった。だが、季節はいつも通りめぐり収穫の秋を迎えた。地物のブドウもおいしい。食べる前に食卓に飾ってみた。放置するとコバエが発生するので要注意だが、毎年この時期の楽しみ方である。ささやかな食卓での収穫祭とでも言おうか。自然のめぐみが今年は特に心にしみる。十五夜は10月1日である。(生活デザイナー)