終戦後に旧ソ連軍の捕虜としてシベリアに抑留された石川慎三さん(1919~2015年)の作品展「石川慎三絵画展 シベリア抑留を描く」が12日、函館市地域交流まちづくりセンター(末広町4)で始まった。石川さんが90歳を目前とした08年ごろから完成させた11点の作品群で、北千島での激戦や過酷な強制労働の様子を通じ、平和への思いを伝えている。
函館YWCAの主催(函館新聞社など後援)。「戦後75年 記憶の継承 未来への責任」をテーマに企画した。作品展示は11年ぶりで、石川さんの妻、和加子さん(93)は「作品を見てもらえて、父ちゃんもうれしいだろうなと思います。戦争の怖さを知ってもらえたら」と話す。
石川さんは旧陸軍兵士として、43年からアリューシャン列島や北千島の前線で戦い、終戦は占守島で迎えたが、直後に旧ソ連軍と戦い、捕虜となった。
作品のうち4点は北千島での米軍や旧ソ連軍との戦いがテーマで、激しい重爆撃の様子も描いた。抑留中作品は大半がモノトーンで貨車から石炭を積み下ろす様子、捕虜の隊列、抑留中に命を落とした仲間を埋葬する様子など、厳しい寒さや過酷さを表現。「シベリアの凍土を掘りて慮友(とも)埋む裸に着せる檻衣もなくて」などと、石川さんの短歌も添え、当時の心情を推し量ることができる。
来場した函館市の団体職員、梶原康男さん(70)は「中国に出征した私の父親と同世代。絵に力があり、迫力が伝わってくる。戦後75年でも決着が付いていないことがたくさんあると感じている」と話した。
また、江差町の文芸誌「江さし草」代表で、抑留経験のある松村隆さん(93)も来場。終戦間際に18歳で出征し、樺太で捕虜となり、47年1月までナホトカで過ごした。松村さんは、収容所内で捕虜がひしめく様子を描いた作品を見て「実感がありますよね。自分の居場所は畳1枚分あるかないか。食事も豆やトウモロコシが少しで、味は感じない。生きているのがやっとでしたから」と話していた。
生前の石川さんが描いた風景画なども展示した。入場無料。16日までの午前10時から午後4時(最終日は同3時)まで。(今井正一)