外から帰ったらよく手を洗う。用事が無ければ人混みには行かない。せきやくしゃみをする時はハンカチなどで口を覆う。体調が悪ければ外出せず自宅で養生をする。自分のためだけでなく、周囲への感染を防ぐためだ。どれも当たり前のことである。
それを今、繰り返しみんなが口にし、実行している。先日、市電での出来事だ。せき込む学齢前の女の子のマスクを若い母親が何度も直し、子どもを抱えて周囲に申し訳なさそうにしていた。風邪を引いただけなのだろう。それでも周囲の目が気になるのは仕方あるまい。少し前までなら、せきやくしゃみにそれほど敏感ではなかった人も、今はみんな神経質になり、周囲に気を配る。
家にいる子どもを退屈させないように料理やゲームをするなどいろいろ工夫している親御さんもいるようだ。図らずも親子の会話が増えたという家庭もある。他方、デイサービスが閉鎖になったため、高齢者だけを留守番させられず、困り果てているご家庭も多いと聞く。家族の役割や、子どもを持つことに伴う責任など、次々に問いかけられている気がする。
さまざまな局面で価値観が変わってきた。「使い捨て」が主流になっていたマスクも、洗って使えるタイプが見直され始めた。時間の使い方や人との付き合い方もこれを機に考え直したという人も多い。この窮地から何か一つでもプラスになる事があるなら、せめてもの救いである。(生活デザイナー)