変わらぬ味を守り続けながら新商品開発も活発に
地元で長年愛される創業70年以上の醸造元
キッコーカワイチの愛称で親しまれる「道南食糧工業株式会社」は函館市に唯一残る味噌しょう油醸造元。1942年大縄町に有限会社として創業、51年に海岸町、64年に現在の場所に移転、69年に株式会社に改組した。江戸時代中~後期の文化人・蜀山人の歌「世を捨てて山に入るとも味噌醤油」をモットーに、現在は2代目の河野光博代表が先頭に立ち、生活に欠かせない伝統調味料づくりへの誇りと熱意を胸に工場の陣頭指揮を執る。「全国醤油品評会」での数々の受賞歴が品質の高さを裏付けるしょう油は仕入れた生揚しょう油を蒸気釜で火入れし最終的な味付けと瓶詰めを、味噌は原材米の蒸し上げから麹づくり、仕込み、醸造まで一つひとつ手作業で行い、いずれも変わらぬ味を食卓に届け続けている。このほか時代のニーズに合わせた商品も次々と開発し、短冊状にした函館南かやべ地区産コンブを入れじっくりと成分を溶け込ませた「真昆布だししょうゆ」や河野代表の食卓から生まれた「鉄火味噌」シリーズ、業務用のタレなど小売りから受注生産品まで200を超えるアイテムを製造。
素材の良さを引き立てる誰にでも好まれる味
函館市内の寿司店や居酒屋から家庭の食卓まで広く使用されている「さしみしょうゆ」(100ml124円~1800ml713円)は、工場の独自性を図り1985年頃に河野代表の弟・河野秀司工場長が中心になってアイデアを出し合い開発した、年代問わず地元で人気の高い商品。「今までにない喜ばれる味を」と本醸造特級濃口しょう油をベースに、コンブやカツオ節のエキスなどの旨味を加えて風味豊かに仕上げたやわらかな甘さは、かけしょう油としても調味料としても素材の味をおいしく引きたてる。携帯用の小さなサイズから1升瓶までさまざまなサイズを用意し、大量生産が難しいことを逆手に、間に業者を挟まない分だけ価格を抑えて提供できるといったメリットから、「真昆布だししょうゆ」以外は、事務所併設の直販コーナーとオンラインショップのみで限定販売。「帰省や旅行で来函した人が口にして、味が気に入ったからとよく購入してくださいます」と、手土産や贈答品用にと足を運ぶ人も多いと言い、道外にも味の良さがじわりと浸透している。
地域に密着して食品メーカーを支える
かつて函館には10軒以上を数える醸造元があったが、流通の向上、量販店の増加に伴い1975年頃から大手醸造メーカーが台頭、売り上げに伸び悩み、同業者が次々に閉業に追い込まれていった。「このままでは立ち行かなくなる」と危機感を覚え85年頃から水産加工物などに使用する業務用調味ベースの製造・販売に着手。小規模醸造元である利点を生かして少量からでも手掛ける細やかな対応が奏功し、同社の主力商品へと成長した。このほか、食品加工用アルコール製剤を生産し食品製造を陰から支えている。昨年改装した直販コーナーではスタンダードな商品を始め各種たれや季節限定商品、生麹を販売。なじみの客が気軽に顔を出し雑談に交えて寄せられた「こんな調味料があったら便利」との声から、「家庭の鍋のサイズに合う量の調味ベースを作ることもあった」と地域に密着しているからこその身近さで要望に応え、そこから商品化したものも多数ある。「奇をてらわず長く日常使いできるものを」と基本を大切にする姿勢が長く愛され続ける理由にほかならない。
道南食糧工業株式会社
函館市栄町2‐7
☎0138‐22‐2721
直販コーナー8:30~17:00
(土曜15:00まで)
日、第2・4土曜、祝日定休
P有り
キャッシュレス決済利用可
http://kikkokawa1.com/
ハコラク2020年2月号掲載