ニーチェは「脱皮しない蛇(へび)は滅びる」と言った。哲学には疎(うと)いがこの言葉は時々頭に浮かぶ。いつまでも現状維持ではダメ。古い殻は脱ぎ捨てなければ成長できない。脱皮を拒めば生きてはいけない。生物学を教える私には理解しやすい格言である。
実は近年、脱皮しなくちゃ、いや、そう自分に言い聞かせる機会が多くなった。「昔は良かった」とか「イマドキの若い者は…」という大人があんなにイヤだったのに、いつの間にかそんな大人になってしまったからだ。誰が悪いのでもなく、時が流れただけなのに、いつまでも心地良かった時代にしがみついて次世代を理解しないのは、脱皮を拒む蛇と同じではないのか。
私は新しい祭りや行事に対して寛容ではないのだが、それは脱皮を拒む蛇と同じかもしれない。クリスマスケーキは私が生まれた時はすでに年中行事に組み込まれていたので抵抗感はない。だが、バレンタインデーや、その騒ぎを受けて広まったホワイトデーに対しては今もまだ「なんだかなー」と思う。日本の伝統であるかのような宣伝文句で急速に広まった恵方巻きには論文まで書いて抵抗してしまった。われながら実に大人げないと思う。
そしてハロウィーン。これは日本には定着しないだろうと思っていたら、近年は大の大人までが仮装して大騒ぎ。起源や意義とは無関係にビジネスとして成長する文化モドキ。だが嘆くまい。脱皮脱皮! 殻を脱いだら新しい価値観を楽しめるのかもしれない。(生活デザイナー)