この春、大学の非常勤の仕事のほかに、若い友人夫妻が経営する会社の顧問を引き受けた。カフェやギャラリーの運営だが、犬のトリミングとホテルも併設している。
大学の教師が何を始めたのかと言われそうだが、生命科学と食生活論、生活美学の専門家として、ついに実践の場を得たのではないかと思う。学問は机上では何とでも論じられるが、実践は実に難しい。ファッション専門の学者が驚くほど服装に頓着していなかったり、食の専門家が肥満だったり、パーティー料理を教える先生が実は誰ももてなしたことがなかったりなど、研究と実践には少なからぬギャップがある。
犬との暮らしについてもいろいろな発見があるが、それは次回に譲り、今日はお弁当づくりについて書きたい。トリマーと犬のトレーナー、パティシエなどスタッフ8名分のお弁当づくりを自ら引き受けたのだ。毎朝である。これが面白い。材料は確かに8倍になるがロスが少ない。光熱費、調味料、制作時間など、8倍にならないものの方が多い。
かつて家族のために義務的に作っていた時とは異なり、8個となると達成感がある。考え直すことも多い。地産地消だ、スローフードだと言っても、予算と時間に限りがあれば現実は厳しい。昨今ブームのお弁当ブログのような美しい盛り付けも難しい。だが、今までの仕事や研究を8個の弁当作りに集約できる気がするのだ。「1人産学共同研究」だと自負して楽しみながら続けたいと思う。(生活デザイナー)